amazon.co,jpからTHROBBING GRISTLE『20 Jazz Funk Greats』Brian Wilson『SMiLE』が届く。この世からそろそろ「表現」なるものが一掃されてほしい。別に一掃されなくとも自分に関係のないところでひっそりと後ろめたくやっていてほしい。表現すべきものがあらかじめあって、それを「表現」するためなら親をも殺す人びと……娯楽や芸術に侵入しがちだけど実際は(絶対に!)それらとは無関係な天下御免のお表現サマなんてとっくに絶滅したと思っていたし、目が覚めたらきっと(藤子不二雄『気楽に殺ろうよ』みたいな感じに)そういう世界がやってくるにちがいないと半ば確信、半ば祈りながら眠るのだけど……いまだもってこの有り様だ。まあそれならそれでいい。今日も見ようによっては明るく、見ようによっては暗く、見ようによってはそのどちらでもなく、ただ生きるのみだろう。


 実際は「表現」とは無縁だが、なんだか誰かが「表現」させたがっているようにも聴こえてしまう『SMiLE』は期待通りの代物だった。ウィルソンがお箸を上手に操って芋の煮っ転がしを口に入れられただけで泣いてしまうような類いの人間ではないけど、公式非公式ともどもオリジナルの「SMiLE音源」はひととおり聴いている人間の「期待通り」ということで、全体を通して聴くとさすがにいいし曲の出来も悪くないんだけど、どうしてもウィルソンがベタッて感じに歌い出すと思わずつんのめってしまうがそんなことにはかまわずどんどん曲は進んでいく。なんだかお手本をただなぞっているような感じで(はじめは1stのRio Grande」みたいだなあと思ったけど聴きなおしてみたらむしろRio Grande」の印象が変わった。相変わらず音の響きは好きになれないものの)、実際に曲のお手本は公式非公式ともに「ある」んだけど、組み立て直しているはずの一部の曲構成やアルバム構成までもあまりに澱みや散乱がなく整然と流れていってしまうように感じる。


 そのひとが制作のうえでの「完璧主義者」か、ということを出来上がった品のみで判断することは可能だろうか。完成度の高い作品というのはこの世に数限りなくあるけど、その多くは大別するとはじめから低いところでの完成度を求めて制作されたか、当初は高いところに理想をおいていたものの制作過程においてそこそこのところで何らかの理由で妥協して完成に持ち込まれてしまったかのどちらかだろう。完璧主義者にとっておそらくこれが完璧だと思える地点はないのだと思う。だからウィルソンでいえば完成度が高いとされる「Good Vibrations」のレコーディング過程を見れば(ブートで聴けば)彼が完璧主義者であることがわかるけど、出来上がった作品は単に完成度の高い作品でしかなく、どこまでウィルソンが完璧主義者なのかということはわからない。
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 一晩寝たら何を書きたいか忘れてしまった。まあ、忘れてしまったのだからきっとたいしたことではないのだろう……というわけではなくて、また別の流れの中で別の形で反復されることなのだろうからいまは放っておいてもよい。『SMiLE』はよくも悪くも「ごく普通の傑作」だった(ウィルソンのほどよく間抜けなズッコケヴォーカルが傷であることはたしかだけど。「Surf's up」のやたらに高音な「♪Domino〜」の部分で何食わぬ顔でするりと誰か――知らないけどJeffry Foskettかな?――に代わるところなんて誰もが突っこむだろう。感動とか泣きとかいうあまり積極的には加担したくない視点で語るならば前作の『Gettin' In Over My Head』の一曲目がはじまった瞬間のほうがはるかに強いことはたしか。最悪な曲が二曲くらいあるが……それと『Sweet Insanity』とかアンディ・ペイリーセッションなんて知ったこっちゃありません)。今回の無理やりの「完成」で世に跋扈するステキ原人たちのうざったいお喋りからこのアルバムが解放されることをこそ強く望む。