2004年の音楽その1



 道端でうっかり拾いかけてあわてて手を引っ込めたあの忌まわしき「ハゲシクドウイ」はもうすべて回収され無事に廃棄されたのだろうか。引用するものと引用されるものがしごくあっさりと一致するときどこからか素知らぬ顔でその呪文が沸いて出てくるここはことわざの国、肩をすくめて「雨降って地固まるだネ」と大仰にため息を漏らすその所作は事実を安易に還元しようとする性急で無作法な手つきによって引用魔の爛れた知性を踏みにじることになるだろう。無邪気さとも受け取れる参照と引用の応酬によって明らかになるのは同意の激しさの度合いのみだしそれを相互に確認することでその場に微笑みがもたらされるのならば第三者が口出しできることは何もない。知っていることだけを言い合うゲームというのはしかし電車の中で通路越しの席でするのが相応しいだろう。ただし値札くらいは丁寧に剥がしておくこと。爪の跡はけっこう気になる。以下例によって飽きるまで芸のない羅列。

"The night and i are still so young"/THE HEAVY BLINKERS
今年もっともすばらしいアルバムのひとつ。THE HEAVY BLINKERSが聴かれない世の中なんて絶対にまちがっている……かどうかは他の誰かに決めてもらうとしてしかしやっぱりちゃんと聴かれていないと単純に入手しづらくて困る。新作はいまのところ輸入盤のみだけど前作の"Better weather"は日本版で出ていて、解説まで載っているし歌詞と対訳まで網羅されていて(歌詞のくだらなさに呆れてしまった)おまけにご親切にもお洒落な感じにジャケットが差し替えられてまでいるにもかかわらず大阪の難波の中古CD店を三店まわっただけで新古品とおぼしきを1000円程度で10枚近く見つけてしまっては(うち二店はBOOK OFF)愚痴のひとつも言いたくなるが言う相手がいないのでまずはその10枚のうち何枚かを理解のある友人たちに配ってしまおうかと考えるくらいはしたくなるし実際にしたがやはりやめてとりあえず家に来た人間には必ず聴かせるようにはしているもののいまのところ一人にしか聴かせられていない。2曲目の"Baby Smile"ほど聴いた瞬間から身体がぴったりと一致してそれがなお持続しているような曲はほかにはないのだよ……と言ってみたところでCDが売れてくれるわけではない。このアルバムと新譜のあいだにフランスのORWELLとのスプリット盤があって、福岡の某輸入レコード屋ではポップに「バカラック+ハイラマズ」と宣伝してあったんだけどこの説明がどれだけ妥当かはともかくとてもわかりやすいし(要するにBrian Wilsonだろ?ってこと)音楽の場合はそうやってほかの固有名詞を引っ張ってくるのがいちばん安全だと思う。小説はひとまず引用できるし、映画も目の前で起こっていることを愚鈍に記述していけば何か伝わることはあると思うんだけど音楽だけはそうはいかず、言葉を尽くせば尽くすほど馬鹿みたいに聞こえてしまう。だから「黙って読め!」と言われると制度的だなあと鼻白むけど「黙って聴け!」と言われるととりあえず膝がしらを揃えてみようという気にはなる。浜崎あゆみに対してそう言われても困るけど……と唐突にこの固有名を召喚してしまったのはテレビで"White Christmas"をうたっているのを観ておどろいたからなんだけど、おどろいたというのはあまりの無謀さとそれに見合った結果におどろいたというか、折り悪くThe beach boysのそれを聴いたあとだったからよけいに利いたというか……たしかCMでもこのひとのうたうこの歌が流れていてそのときは素朴に「このひとって音痴なんじゃないだろうか」と思ってしまったのだけどちょっとさすがにこれは余計なことだったなあと反省する。
Night & I Are Still So...