『SHORTCIRCUIT』/V.A.
風の噂の又聞きをおもちゃの無線機で偶然傍受した夢を見たにすぎないんだけどある文芸誌に掲載された美術に関するシンポジウムの中でオタク文化の話になって、つまりいまいかにもオタク文化が盛り上がっているように見えるけど全然そんなことはなくたまたま雑誌などのメディアで大きな声を出せる連中が「オタク世代」だというにすぎない、それでたぶん岡崎乾二郎だったと思うけどいまのちょっとでもまともな若い奴らはオタク文化などには興味がない、現に自分の周りの学生がそうだ、というようなことを言っていた(という風の噂(……)夢を見た)んだけど、オタク文化というのがある特定のマンガやアニメやゲームや小説のことを言っているのだとしたらたしかにたいそうなものではないしにもかかわらず狂騒に興じるふりをする目障りな一握りの人びとの姿がこれ見よがしに視界にちらつくのだけどだからといってシンポ出席者の身近にいるという(だけの)若い連中が見向きもしないからたいしたことがないのだとは言えない……というかその連中が見向きもしないからどうだというのかという気にもなるし、なんとなく思い出したのがちょっと前にスガ秀実高橋源一郎のあいだではついに起こらずその周りで火花が二三度パチパチと情けない音を立てただけで結局はうやむやになってしまったいわゆる「アルツ論争」のとき、『批評空間』誌上に『「帝国」の文学』の(この論争についても若干触れぬでもない金井美恵子『目白雑録』にて何度か用いられる言葉を拝借するなら)きわめて万引き的な書評を寄せた高橋源一郎を『批評空間』のwebサイト上でスガ氏が「アルツ呼ばわり」したことがそもそものきっかけなんだけど、その記事にスガ氏が「わたしの生徒もみな(高橋書評に)憤っております」というようなことを書いていたことで、でもまあ近畿大学というのはそういうところなのかな、きっといい先生なのだろうな……とわずかに心があったかくならないこともないかも知れない。

  これは実際に読んだんだけど仲俣暁生が以前blogかなにかの記事で漫画『げんしけん』を読んだという話をしていて、まず連想として山本直樹という名前が出てきてこれは『稲中』に似ていると言われるよりもはるかに納得できるものだし作中でわりとさらりと流される類いの痛さはたしかに心当たりのあるものではあるんだけど、つづいて仲俣氏はこの漫画で中心的に描かれる現代視覚文化研究会の連中はオタクというより(オタクというレッテルの射程距離の甘さを認識したうえではあるが)新人類的だという言い、原口という《どう見ても大塚英志》の先輩が垂れる現視研批判をかなり痛烈な新人類批判だという(またもや金井美恵子の『目白雑録』にご登場願うなら)「読み」を呈示していてこの作品を手放しで受け入れてしまうことの危うさを説いているようなのだけど原口の批判はまずは作品内の現視研メンバーに向けられたものなのだし誰も彼もが80年代やらその種の世代論にご執心というわけでもなく(だからどう見ても大塚英志、とか言われても困る)そもそもこの漫画をおもしろく読んではいても手放しで受け入れるはずもないし特にそういうふうに受容されているようには見えない。

  で、なにが言いたかったかというとそのことだけはずっとおぼえていて、この『SHORTCIRCUIT』は昨年の発売なんだけど毎度ながら遅れて手に入れたのが今年だから仕方がないとして、やはり結果としていちばん聴いたのがこのCDではないかなあ、ということ。成人向けパソコンゲームの歌が入っていて、とうぜんその情報だけで多くの人からまともに取り合ってもらえる可能性がほとんどなく、また内容はその偏見をさらに助長すること受けあいの確実に偏った代物ではあるんだけど音楽が何らかの「正しさ」というものを体現しうるとしたらまさにこのアルバムこそがその現われのひとつなのだと思う。意味も意義もなくただ正しさだけを押し付けてくる。というのも正しさというかたちはなく、ただ押し付けられることで、押し付けられるものとしてのみ正しさという事態が現われてくるからだ。萌えだとか電波だとか関係ないしそんなものにはあまり係わりたくない。ただあまりに過剰で、ごつごつとした手触りの正しさと音楽を受け止めるだけでよい。白眉は「さくらんぼキッス〜爆発だも〜ん〜」という曲で、世界の誰ひとりの共感をも決して得られないだろうがこの曲はぼくにTHE BEACH BOYSの「'Til I Die」への接続を強く促すのだけど、この音楽の放つ異様なエモーションというか振れ幅は少なくとも新生『SMiLE』のどの曲をも軽く凌駕していると思う。このアルバムの半数以上の歌(とほとんどの曲の作詞)をKOTOKOというミュージシャンが担当していて、前述の「さくらんぼキッス」も彼女の歌唱/コーラスによるものだしそれなしでは出来がまるでちがっていただろう。むろん2004年も精力的に活動をつづけアルバムやシングルを数枚発売しているようで、そんなに細かく追いかけているわけではないけどぼんやりと生活しながらも聴くことができた範囲では「ねぇ、…しようよ!」と「DuDiDuWa*lalala」が今年の中では際立って印象がよかった。特に後者は萌えとも電波とも無縁で、地味ながらすばらしいといってよいと思う。
SHORT CIRCUIT