今日はとにかくこの感動を記したいとだけ思った。一本の映画作品の細部をすべておぼえるのは困難だしそんな集中力も時間も能力もないため普段は決して発想には至らないのだけど井口昇アトピー刑事』ならわずか10分だ、すでに二回(つづけて)観た。そしてそう書いてまだたった二回しか観ていないこの身の鈍重さにおどろき呆れ憤り肩を落とした。映像が途切れたあと恍惚としながら「天才すぎる……」という無意味な感嘆の呻きを漏らしてしまったことも恥辱を込めて記しておかなくてはなるまい。いま聴いている志方あきこ『廃墟と楽園』(とわざわざ書いたのはまるで嫌がらせのように井口昇の名前によって志方まみという名前が呼び出されてしまったからだ、平野勝之『わくわく不倫講座』という平野氏とその恋人だった志方氏の恋愛(不倫)とその終焉を8ミリで撮影しさらにその後の二人の関係までも先取りして回想してしまう作品で20年後の志方まみを井口氏が演じていて、女装して紅を引いてふたりで腕を組んで街を歩いたり口吻をしたり尿を引っ掛けあったり(つまり志方まみと平野監督が恋人同士だったときにしていたのと同じことで、それはこの作品の前半に平野氏自身のカメラによって収めてある)するのだけどどうやら志方まみは何らかの奇病に冒されているらしく顔をはじめとした全身ところどころに赤い斑点ができている。そういう格好で「いやぁだもう、平野さんったら」としなを作りながら口を尖らせる井口氏はもちろん気持ち悪いことこのうえないのだけどしかし同時に愛嬌がこぼれ、下手すると艶めいたものまで感じてしまい目が離せないどころか何度も見てしまいそうになりやはり実際見ると気持ち悪いが絶対に目が離せない。ところでさらに奇病が進行し荒れきった部屋の中で死にかけている30年後の志方まみを演じたのは『アトピー刑事』に出てきた原達也氏だろうか?そういえば井口氏とともに『不倫講座』の前日譚である『アンチセックスフレンド募集ビデオ』にも出ていたし、映画やテレビなどを含めいままで観てきた映像作品の中でも最高の部類に入ると思える『水戸拷問2』(悶、だったっけ?一作目は見ていないけど)*1にも出ていたなあ。……ということで変なところで妙な記憶を喚起させられてしまい志方あきこ氏には悪いことをしたかなあと思う。世事に疎いので知らなかったんだけどメジャーデビューは二日後に迫っているとか。このアルバムはMeredith monkとKate bushがAnthony Phillips『The Gees and The Ghost』とまったく逆のアプローチと密度で異世界を現出せしめている感じというか……おそらく霜月はるかみとせのりこを好きなひとは絶対に好きなんだろうなあとは思うのだけどこういう(連想のストックが乏しいうえに偏向した)固有名を出しても知らないひとには伝わらないかも知れないので「幻想、民族、高音、多声」という比較的共有しやすいイメージを怠惰に並べておく)をわざわざ止めてまでせめて寝る前にもう一度観ておくべきだろうか?観ておくべきなのだが問うまでもなく、しかし愛について語るアトピー刑事の緩んだ表情と声のトーンがいまだ頭から離れてくれずそのたびに笑いと感動による全身の震えを抱え込みきれずどうしても観られそうもない、それどころかほかの何をする気もおきずただこうやって音楽を聴きながら落ち着きなく感動の痕跡だけを記そうとして失敗しているがこれに関しては失敗してよかったと思う。昔観た『毒婦』をまた観たくなった。主演していた愛染恭子のこの映画での輝き方は林由美香の全盛期(という言い方が悲しい)みたいだったなあ、といまさらながら思った。

*1:正確には『水戸拷悶<不完全版>』だった……ということを偶然自分が昔作ったHPの残骸から知らされて死にたくなってなお健康。もはや公害の域に達している。つらいと思えればひたすらつらい、ということを8月9日の夜中に記す。