食事を終えいつものごとく死にたい気分を抱え込みテレビのブラウン管にへばりついたほこりを「いいかげん拭かなきゃな……」と思いながら眺めていると(そしてちょっと布きれで撫でてみたりしていると)何かがいっせいに崩れ落ちるような音とともににわかに背中に叩きつけられそのまま重さを捻じ込まれるような衝撃が走りにもかかわらずわずかな気怠さを感じながら緩慢に振り向いてみると壁一面にプラスチックケースとダンボールを駆使して積み上げられていたはずのCDやDVDや書籍やゲームのパッケージの一部が見るも無残な姿で散乱していて絶句しつつも悲鳴を上げながら笑ってしまった。どうもおかしいとおもったのだ。ここのところ休日に入るたびに世界の各地から現地録音や名産品や打ち捨てられたガラクタの寄せ集めがひっきりなしに送られてくる。毎日部屋で鳴っている音楽がちがう。そう思ったら実は同じ組み合わせのものばかりをローテーションで聴いていたりする。そしていまなおしぶとく残るあまりの熱気にすでにプラスチックやヴァイナルが溶けてところどころいびつに固まり奇妙なオブジェの態を成している。そして今日もまた性懲りもなく新たなディスクを部屋に持ち込んでしまった(そして霜月はるかスムルースの新譜を持ち込み損ねた)。


  学生時代は食費を削って買うしかなかったため月ごとにまとめて購入記録をつけていたしかつてほんの一時期ミクロとマクロの対立というか生体的拮抗により部屋から出ることがひどく億劫になっていたためもっぱら買い物にはamazonばかりを利用していたことがあったのだけど(しかも代引き。手数料をなるべく払わぬようせせこましくちまちまと……その「遺産」は何ともつい最近まで引き継がれてしまっていた。一度だけ『motown meets the beatles』が単独で計上されてしまったことがあって、そのときは歯噛みをしながら舌打ちを繰り返し歯茎が血に浸ったものだった。なんともみみっちく情けない話だがしかしこのアルバムのあまりの面白さにすぐに気を取り直し血も丁寧に拭った。馬鹿馬鹿しいほど豪勢なアルバムで、なぜかソロ時代の曲が三曲収録されているのが余計な気もするがとにかく濃く、妖しく、ときにかわいらしく麗しい。そして当然ながら皆うまい。"We can work it out"を歌うStevie Wonderはさすがのお調子者ぶりで、その辣腕は8曲目の"She's leaving home"のプロデュースでも遺憾なく発揮される。歌うのは当時夫婦であったSyreetaだが彼女の粘り気のない美しく軽快に伸びる歌唱とそれと会話をするかのごとく過剰にいななくスティーヴィーのシンセサイザーによって構成されたこの曲は90年代後半辺りに発表されたと言われても納得してしまいそうなほど現代的でちょっとおどろいた。The Supremesの歌う三曲はどれをとってもにんまりするほどかわいらしいのだけど"Come together"はYoko onoの歌唱を彷彿とさせた(『無限の大宇宙』とか『空間の感触』とか)。「もしもヨーコがビートルズをカヴァーしていたら」というように聞こえる。あとあまりにコクのありすぎるFourtopsによる三曲やら聞きどころだらけではあるのだけどやはりまあMarvin gayeによる全編裏メロの"Yesterday"は狂気の沙汰だ。それに尽きる。音の構成に何度聴いても失禁させられそうになる。水際ですよ本当に)そのときだってちゃんとamazonに履歴が残っているので無謀と脅威を数字としてまざまざと感じることができた。だがいまは買うだけだ。送られてくるものをただ肯いて受け取るだけだ。いちおう毎月私費に投じうる予算は大まかな枠組みのみなれど事前に設定してある。決して余裕があるとは言い難い。しかしどうも資金の流れが要領を得ないというかつかみどころがないのだ。そこではたと気がついた。世にあまた溢れるblogやdiaryなどにしばしば見られる買い物リストやひとこと感想などだ。あれらはただ「自分の好きなものプラカード」を見せびらかしているというわけではなく自らのものぐさと折り合いをつけた可能形態だったのだ。それなりに興味深い買い物リストの内容を延々と読まされ「ええいもう、だから感想を聞かせろよ……」と苛立ちさえした日々がいまや遠い。彼らは「見るなら見たっていいよ、だけど判断なんてそうそうしてやるものか」と行為と営為のはざまの可能領域で忙しなく粘りながら曖昧に切断しつづける者たちだったのだ。まいった。彼らを見習わせていただくことにする。とりあえず遅くなったので明日からちょっと整理を。


  あと今日の発見。いままでよく見ていなかったがテレビに出ていた大沢あかねは二三年前の新谷良子に似ていた。つまりちょっとグッときた。いやなんか変な方向のツボにがっしりと入った。そしてとうぜん両者ともダブルユーの片割れに似ているということになるがこちらのほうにはきわめて関心が薄いのだった。それだけ。

ちょっと画像などを……と思って調べてみたら持っているやつとジャケがちがうじゃないの。Motown Meets the Beatles