輝かざる断片

 先週くらいのことだが深夜テレビのチャンネルを替えていると何やらバラエティ番組が映って状況はよくおぼえていないがユースケサンタマリアが虚ろな瞳でカメラに向かって「萌え〜」とあくまでフラットに喉の奥にしまっておいたものをそのまま吐き出すかのように言い、数拍おいてからもう一度まったく同じ体勢、同じ視線、同じ虚ろさで「萌え〜」と繰り返し、瞬く間にもう何もかもが嫌になった。あの土気色はいまだいささかも損なわれることなく記憶に焼き付いて消えそうもない。おそろしい男だと思う。


 大人計画『まとまったお金の唄』。『キレイ』を観たあとだからかその短さにおどろいたがもはや『イケニエの人』の記憶はないので比較ができない。そのわりに長く感じてしまったのは後半が完全に息切れしているからで、名場面や胸を打つ台詞のパッチワーク(そして役者たちの熱演)によって玉突きのごとく芝居が進行しまたそのことによって舞台はかろうじて保たれていた。相変わらず感想さえも簡単には許してくれない出来でかなり楽しめたし行ってよかったとは思うけど満足も煮凝った不快さもなく大きめの編み目からボロボロと細部がこぼれ落ちていく感じ。しかし松尾スズキはやはりそこに立っているだけで自然と焦点が合い瞳の虹彩が絞られる。前面に出ることを自粛しているのだろうけどもう一度くらいは解禁して阿部サダヲとの絶妙なコントラストを舞台上で作り出してほしい。『COUNT DOWN』を再演してはどうでしょうか(『第三のやくたたず』では《遊覧船に乗ってる親戚がみんなで難破して無人島に取り残される》芝居だと言及されている。おーもしーろそーう)。かつて柳下毅一郎黒沢清について「女の趣味がいい」と書いていて、それにはまったく同意するし、子供のころ『マルサの女2』に出ていた洞口依子がもうかなり滅法めったらまったら好きでいまだそれが尾を引いている状態だったりするのだけど(『カリスマ』とか。『富江』とか。『あげまん』等の伊丹作品はできればこれ以上観ずに済ませたいので迷っているのですが洞口ファンは必見でしょうか教えて一番エロいひと……)、松尾スズキも同様だと思う、いや、意味合いはまったくちがってくるような気もするがそれでもやっぱり好きだし好きだったと口走りたい。