再・感想

 Georg Buchner未完の戯曲「ヴォイツェク」を原稿一覧表や構成対照表を適宜参照して読み眺めながら、まあ『涼宮ハルヒの憂鬱』程度のシャッフルで大騒ぎされてもねえ……と見当違いというかお門違いな感慨にもたれていたら(いまさらだけどこの作品は放送第一回目で本編の第11話にあたるエピソードを放映し、二回目からようやく1話目、2話目と作品内の時系列通りに放映したかと思えば四回目で何事もなかったかのように7話目へと飛び、以降順調にジグザグと進行していきおそらく第6話で最終回を迎える。ところで2話目のあとに7話目が組み込まれることがなぜ問題になるのだろうか。問題提起をしたいのではなく単にわからないから聞きたいのだ。なぜいまだ放映されていないはずのエピソードにおいて生じた(と推測される)何らかの出来事を登場人物たちがあらかじめ共有し、話題にし、回想してはいけないのか。なんでそんな些細なことで躓くのか。躓くと思うのか。どうやらこのいわゆるシャッフル構成とやらの意義について賛否両論の視聴者たちが各所の限定された苔の根元でぬくぬくと対立を深めていた時期もあったという。周囲に放送を見ている人が皆無なので確かめようもないがつまりはよっぽど暇を持てあましているというほどのことなのか。こんなのいささかの混乱も与えはしまいし不親切でも何でもない、ましてや原作既読者だけが楽しめるなんてことはあるはずがない。仕事ぶりが親切丁寧にすぎて鼻につくことはありうるし、あからさまな操作の手つきが興を削ぐということもあるだろうが……つまりはそういうことなのか?わからない。誰も教えてくれない。多くの人々がある共通の了解のもとにぶつかり合ったりすれ違ったりしているようなのだけど、書を繙いたらそう記述されていたのだけど、それゆえいまさら誰もはっきりと教えてはくれないのだろうけど、だからといって切実に知りたいわけではないし誰かの肩をたたいてまで聞こうとは思わないのだけど、そもそも偶然目にする以外でweb上のその手のやりとりや文章を読むことはほとんどないのだからおそらくこのまま閉め出され追い放たれてあっさり孤独死だ)、第12話「ライブアライブ」がもう鶴屋さん登場から揺れるゴミ箱からバンド少女のドラミングから終了後のCMまで泣けて泣けてしょうがなく気がついたらCD『涼宮ハルヒの詰合』を手に書店のレジ脇に並んでいてつまり一日ちょっとの記憶が頭のなかから跡形もなく抹消されているのだけどどうせろくでもないことしかなかったろうから気にせずいまは本気の歌と演奏を聴けばよい。箱庭の世界であらかじめ回想された現在が息づき、脈打ち、ときおり不意にそれに触れてしまうことで肉体が瞬時に象られ感情にわずかなさざなみが起こる。身振りや言葉がエピソード構成のなかでずれつつ多重化する手前で霧散する。ここまできてようやく判断するに足る最低限の材料があらしめられたのだ。なかなかいいものを見せてもらったと思う。ところでもっともっと劇中で歌を流す作品があってもよい。映画『ラストデイズ』の「毛皮を着たビーナス」みたいに。関係ありそうでなさそうな感じ。ネタやお約束ではなく。聞かせる。映す。そのものとして。レコードを流したっていいし。カヴァーしたっていいし。Zappaの出番だ。Faustとかよいじゃない。茶太がMary Hopkinをカヴァーするのはどうだろうか……これじゃもはやただのリクエストか。感想つづき。アニメ版ひぐらし竜宮レナは急に怖くなった。そしてますますエロい。声を務める中原氏の演技もCD版よりさらに磨きがかかっているように思う。いつも動揺してしまうのだ。やはり変態か。『シムーン』は粛々としていながら出崎演出で宝塚で24年組で「美しければそれでいい」というアンバランスな危うさを醸しながらも身も蓋もないアニメでなぜかもう気になって気になって夜も眠れずしかも暑くてしょうがないのに目が覚めたらいつも羽毛布団をかぶっているので汗染みは淡いブルースどころの騒ぎではなかった。「だいすきだ」と上戸彩ばりの心なさと浮ついた抑揚で辛くも宣言したい。


 ARCHITECTURE IN HELSINKIの『IN CASE WE DIE』はもうみなさんすでにお聴きのことと思う。厳粛さと稚気が並び立ち、ほとんど同じ意味を興しながら様式性に溶け込んでいる。8人の男女混合メンバーが40種類以上もの楽器を曲にあわせて取っ替え引っ替え使いこなすというだけでも居てもたってもいられなくなるじゃないか。ジャケはさながら『Smily Smile』か『SMiLE』かというタッチで、そこらへんの音が好きならば迷うなかれという感じだ(必然的にAnimal CollectiveやHeavy Blinkersとも繋がってくるわけ。ホーンの音色とか……)。WINGSの最高傑作が『Back to the Egg』だと疑わない諸兄にもちょっと聴いてみたら?と言ってみたい。bass guitarの音とか影響を受けてそうですよ。ライヴ、行きたし。