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 歌いはじめて間もなくブライアンの手がカールの肩にまわる。ここで泣かずにいられようか。いられない人種もいるのだ、ということだ。もちろん泣くほかない。当然美しいハーモニーも健在なのだが、それに留まらずところどころに染みのようにわずかなノイズが混じっている。これもまた"The lord's prayer"や"Our prayer"にもはっきりと認められる彼らのコーラスの特徴だろう(あらためて確認するまでもないがアカペラの曲を聴くことでMike Loveの低音がいかに旋律を支え導き音の聞こえ方を左右しているかがつぶさにわかる。ブライアンバンドや他のコーラスグループによるカヴァー等でしばしば物足りなさを感じるのはそのせいだろう。SMile座礁後の彼らの音楽は、少なくともライヴを除けばどんどんそれに頼らない、その割合を減じていく方向へと向かってはいくのだけど)。ともかくよいものを見たなあと思う。物のついでにどれどれ……とちょっとだけ手を広げて調査してみると"Cool, cool water"のテレビライヴの映像なんかも見つかってちょっと噴いた。こんなのを演奏して誰が喜ぶというのか?無闇な果敢さだけが前面化している……と思ったのだけど二回観てみるとこれはこれでなかなか悪くない。辛気くさいしいかにもダメな人たちという雰囲気がスタジオに立ちこめているのだけど、アルバム収録版もこれくらいあっさりとした構成でやったらよかったんじゃないか。導入部の声の重なりがアシッドフォーク的な幽玄さを湛えているがこれは公式版等には感じたことのないものだった(先日購入した70年頃のアシッドフォーク幻の名盤……らしい『(タイトル失念)』は無根拠なハレ感覚と気怠さが霧がかった密室に漂う謎音源だったのだが、こういうものとの交差性をビーチ・ボーイズの音楽に感じることはきわめて稀のように思う)。歌がはじまってからはいつもの彼らが戻ってくるのだけど。