Frederic Wiseman "Meat" "Near Death"、黒沢清『LOFT』、川崎和男展。先に川崎展について書くとこれはひと目見てすぐわかる面白い展示。順路のはじめに位置する部屋に半円に区切られたステージに数十台のモニターとそれを背後から映し出す鏡面が据えられていてひとまずここで覚醒させられる。そのあとの部屋には都市生活や身体に密着した、あるいはそのものを構成するデザインが白で塗り込められた広大な空間に色とりどりに散りばめられ、最後にその(言葉の、形の、色の、音の)思想基盤が凝縮された部屋に突きあたる。全体的に作者が至る所に姿を現しそうな気安さがあり(家庭内原子力発電機の説明をしてくれた監視員のおじさんを一瞬作者かと疑って名札を確認してしまった……)、展示の規模自体は、その占める面積という意味ではさほどではなかったのだろうが何度か通過するだけで量に還元されないミクロとマクロのスケールや確かな設計(デッサン)を感じることができた。キャロル、キルケゴール道元ら12人に対するオマージュで構成されたインスタレーションプラトンのオルゴール」はもうちょい時間をかけて見たかったのだが『臨死』が控えていたため早めに切り上げざるをえなかったのが少しばかり心残りではある。金沢21世紀美術館にて11月12日まで。巨大な心電図の下で機能が剥き出しにされたシンプルなデザインの人工心臓や人工腎臓を見てまわるといいと思う。『肉』でこともなげに剥離し引きずり出される牛や羊の臓物を見て、そのあとに透明の人工臓器を見て、それから『臨死』で機能不全の臓器を抱えて死にかかった人々を見て、で、映画祭の名前が「怪奇と幻想の世界」って……なんか符合というよりは質の悪い冗談のような気もしてくるのだけど。

 黒沢清高橋洋(+ゲストの西島秀俊)のトークショウがすごかった。黒沢監督による『LOFT』への言い訳からはじまったときはどうしようかと思ったけど、結果的に話は弾み、始終物憂げながらも黒沢監督の懐疑性や子供っぽさも開陳され、高橋氏、西島氏の人柄もうかがえ、面白い話もたくさん聞けた……そしてもちろんいまはまだ表に出せそうもない話もいくつかこぼれ落ちてきたのだが、その中でも度肝を抜かれたのが近ごろ映画学校で行なわれた某作品の秘密上映会の話。箝口令を敷かれたわけでもないけど、先々月頃にこのことについて触れている某評論家氏の日記でも名前は伏せられているしまあその場に居合わせた、あるいはwebや口コミ等でその情報を断片的にでも知る人間(この作品に関しては誰もがほとんど断片的にしか知ることができないのだが)ならば考えなしにそのタイトルを口にすることがどれほど無思慮で無謀な行為かじゅうぶんに了解できるにちがいない。話を聞くだけでおっかない。内容が、というよりは(だって見たことないので)そのフィルムが存在すること、あるいは人々の記憶の中でのその在り方そのものが怪奇なのだ。上映会にひとりだけ呼ばれなかった黒沢監督の恨み節が報われるためにもこの作品が幻に終わらぬことを切に祈りたい。