その日はPaul Zukofskyの奏でる弦の音色を聴いて布団のうえにうずくまり、顔を埋め、嗚咽に近い呻き声を漏らしながらのたうちまわり、やがて行為を奪われたままじっと身を晒しているほかなかった。一曲目の武満徹「悲歌」でヴァイオリンという楽器をはじめて聴いたかのような錯覚と喜びに見舞われ、二曲目の高橋悠治ローザス1 1/2」の微細に刻まれ穿たれた旋律の彼方から、はるか古代から不意に音が差し込まれ、死に絶えたはずの時間が再び息を吹き返すのを胸の内で感じ、感じる間もなく迫り上がり、震え、そこでもう身体からあらゆる抵抗が痕跡さえ残さず脱けきってしまったのだった。『ポール・ズーコフスキーの芸術』というCDはTOWER RECORDで企画・販売されている。価格は目を疑わんばかりの¥1,500税込みで2枚組。倍額でも買うだろう。五倍でもその価値はある。つまりそれでも買うときは買うだろうということだ(HMVで売られているシベリウスの15枚組BOXとかになるとまた話は別だしそれなりに長い迂回を要することにはなろうがどうせ結論はいっしょなのだから問題はない。まっすぐゴー、いますぐ確保せよ)。今年はすでに茶太『あさやけぼーだーらいん』をはじめDEERHOOF『Friend Opportunity』とかM.WARD『POST-WAR』とかeufonius『Σ』とかすでによいものに何枚も行き着いているのだけど(しかしよく考えたらその内三枚は昨年発売じゃないか……Frank Zappa『TRANCE-FUSION』はどうだっけ……テストパターン『朝を見た』は? ところで『朝を見た』の変形ジャケットのあまりの変形ぶりにはおどろかされた。鳥の形を模していて、開くときは飛び立ち、ケースを閉じて収納するときには羽を休めて眠りに入る状態になるわけだ。音楽自体も触発されるものだし何よりその造りがよくて、開閉の手順自体はきわめて邪魔くさいのだけどどうしても見た目の好ましさが買ってしまうため最終的にはほとんど気にならない)……むろんくらべてどうというわけではないが、やはりこの一枚は格別だ。