光合成は大人の嘘だ

 ビデオを整理していたら録画したおぼえのないチャップリンの短編映画に行き当たったのでニヤニヤしながら眺めているとエンドテロップのところで「music composed by DENNIS WILSON」という文字が大写しになり、だめ押しのように「音楽 デニス・ウィルソン」という日本語のスーパーが挿入され思わず「デニスってチャップリンの映画音楽を手掛けていたのか!」と本当にこのままの説明的な科白を驚嘆とともに吐き出してしまいすぐに赤面してうつむく羽目に陥ったのだが、よく考えてみればそんな話は聞いたことがないし、聞いたことがないというのはありうるにしてもモノクロのサイレント映画などウィルソン三兄弟がこの世はカリフォルニア,ホーソーンに生まれ落ちる一抹の予感さえ存在しないはるか昔、というほどでもないが少なくとも1930年代にはそのいっさいが消滅していたのだから劇伴などつけようもないのはよく考えるまでもないことなのだけど、しかし何かの拍子に60年代にサイレントを作っちゃったんじゃないか、んもうチャップリンったら……と余計な妄想を働かせる往生際の悪さが致命的ではあったし結局この夜はみずからの身体を両腕で掻き抱きながら布団のなかで打ち震えるほかないのだった(『電脳コイル』再放送を録り逃したしね……予約設定の午前と午後を間違えて)。

 しかしこれはビーチ・ボーイズのファン誰もが一度は通る道なのだろうか?ちなみにその短編のタイトルは『消防夫』で、原題は"The Fireman"。言うまでもなく未発表アルバム『SMiLE』のために録音されたインストゥルメンタル通称"Fire"のことを思い出しているし、ドキュメンタリー『An American Band』であたかもそのイメージ映像であるかのように流れたBeach boysメンバーによる消防士コント(?)まで含めるとちょっとした符合までをも感じてしまう。映画のはじめではチャップリンは寝坊のため出遅れるし、その後あわてて消防馬車を走らせほかの消防夫たちを消防署の前に置き去りにする場面まであるのだ。さらにどうでもいいことにチャップリンには"smile"という超有名曲があるし……。果てしなくどうでもいいことに70年代にはBeach boysにブロンディ・チャップリンというメンバーが加入するわけだし……。しかしまあそんなことはきわめてどうでもいい。とにかく『消防夫』のラスト、自分のネクタイとともに女性の腕を巻き取るように絡め取りそのまま悪戯っぽく退場していくチャップリンの一連の所作に感動した。何度も巻きもどして見たし、コマ送りまでしてみた。一時停止してその軌跡を画面のうえに組み立ててみた。この動きが真似できる役者がほかにいるのだろうか(あらためてサイレント映画の復活を心より願う。両方あればいいじゃん。この前観たビル・ヴィオラのいくつかのヴィデオ作品はサイレント映画といって差し支えないと思う。宗教画をモチーフとしながら個人の感情を捉え揺さぶり引き延ばす。事件はつねにフレームの外側で起こっている)。

 ところで最近気に入っているゴヤの『巨人ごっこ』という作品の画像ファイルないかなーと思ってwebを漁っていたのだけどマイナーなのかぜんぜん見つからなくて、巨人やサトゥルヌスに喰われる子供の尻ばかりを見せられ、意地になっていろんなところを覗いてまわっていたらいつのまにか空が白みはじめ、おまけに昨年プラド美術館展に行き忘れていたことなんかを無遠慮に思い出させられてしまい絶望した。やはりそういうことなのか……。