OLの嗜みではないが……

 土曜日は井口奈己人のセックスを笑うな』、高橋洋『狂気の海』、沖島勲『一万年、後....。』という冷静になってみると正反対というか、けっこう無茶な組み合わせ。後ろ二本はビデオによる二本立て上映で、このままその日の観た順番になるのだが、もし逆だったら、つまり二本立てを一日のはじめに観ていたらもうその日は何の映画を観る気もなくしていただろうし、用意していた前売り券を茶封筒ごと握りつぶしていた可能性さえある。それだけ二本立ての印象が強烈だったということだし、その二本立てですら上映順が逆だったらちょっときつかったなあと思うのだが(というのも『狂気の海』は34分間文字どおり自然に空いてしまう口を閉じておく手段も持ち得ないままひたすら驚然とするほかないものの終わり方はかなりすっきりとしていて、この作品の感触はいったん潜伏したのちいずれどこかで不意撃ち的に立ち現れ肌を粟立てるのだろうなあと予感させながらも一抹の清涼感とともに余韻を喉の奥に仕舞い込めてしまうのだが、『一万年、後....。』の余韻の深さと持続は半端ではなく、終わったあともまったく頭を離れることなく考えるにつけ胸を打ち、目を開かされ、頭を抱え、しまいにはなんだかじんわりと涙が溢れてきそうになってくるほどなのだ。そして明らかにその余韻は『狂気の海』をすでに観ていた、しかもついさっき、という確乎たる経験により二乗されている。当日は大阪公開の初日ということでプロデューサーの人が来ていて上映前に簡単に話してくれたのだが、どうやらこの企画は『映画秘宝』でこの二本が呪われた日本映画としてカップリングで紹介されていたことがきっかけになったらしい。みなグッジョブとしか言いようがない)、そもそも『人のセックスを笑うな』はちょっと観に行くのが億劫だったということもある。待望の井口監督の最新作なのに……なんというか「スイーツの予感……!」ではないけど、『ラストデイズ』を観に行く前の「ナーヴァナファンの皆々様はいまごろいかがお過ごしであろうか……」とふと遠くを眺め望んでしまうような憂鬱さというか、ぶっちゃけ混んでるだろうなあ、と柴崎友香『ガールズファイル』を細い目でためつすがめつしながら懸念してはいた。で、実際のところ三時間前に予約してようやくましな席に座れたという程度には混んでいたし(立ち見多数)、客層もさもありなんという感じではあった。長回しでセリフのないロングショットがつづくと無言のざわめきやささやかな衣擦れの音が場内に満たされ、エンディングテーマが流れはじめた途端に各所で席を立ったり後ろを振り向いたり即座に感想を言い合ったりする。ちゃんと見ているのかな?と思わせるほど画面の変化に対する反応が薄かったり。むろん反応する義務などないし、寂しくはあるけど、しかしこの映画にはいろいろと反応のしどころが仕込まれているので(これ見よがしではなく見事な構成で)それにいちいち反応するような人が犇めいていたらそれはそれで煩わしい。この客層ならばいびきをたてて寝るようなひとは滅多にいないだろうし。すばらしい作品であることは揺るぎない。