土曜日は中津芸術文化村ピエロハーバーにてウリチパン郡『ジャイアント・クラブ』レコ発もといリリース・パーティ。十三にはFandangoと第七藝術劇場があるので何度か足を運んではいるがまさか梅田駅とのあいだに挟まっている阪急中津駅で降りることになるとは夢にも思わなかった。電車から降りた途端に大阪ではお馴染みの埃臭い空気が鼻をつく。事前に地図でざっと会場の位置を見てみたら国道のところに点が印され阪急中津駅から徒歩一分と書かれていたのでまあ方位さえ間違わなければ楽勝で見つかるでしょうと楽観していたら……駅がない。阪急神戸線普通列車に乗って中津駅で降りたのは確かだし、改札を抜けて駅のような地下通路を抜け細長い階段をのぼったところまでは記憶にあるのだが、気がついたら広い車道のすぐ脇に立ち尽くしていたのだった。で、携帯電話でそれっぽい地図にアクセスしてみたら「駅のすぐそば、国道の真下だよ!」って書いてある。なるほど、つまり目の前のこれが国道で、さっきのはやはり駅だったというわけか。そんなわけでとりあえず手近な階段を降りてみる。するとなんか高架のすぐ脇に施設らしきものがある予感……! ワーイとばかりに近寄ってみたら壁の側面がくりぬかれ、その中で十数人の男女児童が数人の大人と体操というか遊技的トレーニングみたいなものに明け暮れている様子が周囲の民家に対して隠すことなく堂々と開け放たれている。なんだ?? 動揺のあまり頭のなかでは『アイム・ノット・ゼア』の貨物列車が猛烈に走り出したりしたのだが(しかしこの映画初日の夕方に梅田へ観に行ったのだが前回の上映終了五分前に着いて整理番号二十番台って……大丈夫か?といろいろ心配になった。トッド・ヘインズ久々の新作だし、題材がボブ・ディランだし、六人の俳優がどうとかは「ああ同じ名前のソロンズが『おわらない物語』でやっていたよね(主に観客への最大級の嫌がらせのために。傑作だが凄まじいまでに酷い作品、もちろん誉め言葉なんかではなく)」くらいにしか思っていなかったのだけどまあともかく話題作には違いないでしょうということで例のごとくまったく前評判も知らずに席からあぶれることを覚悟で劇場にたどりついたわけですけどね。「いやあこの時間だとまずいでしょう」「たぶん席残ってないと思うわ」とか言っちゃって恥ずかしいったらない。まあ映画そのものはよかったに決まっているし、最終的にスクリーンの向こう側ではぐらかされた感じは否めないが、あらためてヘインズは現在もっとも優れたアメリカ映画の監督のひとりだなあとの感慨がわいたのも事実。関係ないが『SAFE』が『ケミカルシンドローム』というおろどおどろしいタイトルでビデオ化されてそれっきりというのをまず何とかしてくださいよもう)、同行していた脳細胞二個マンが促すので国道の方を見上げると巨大な「ショー・コスギ塾」の看板が。なんか納得。そんなわけで五分ほど付近をほっつき歩いて別の高架下でピエロハーバーを発見。


 入場のあまりの段取りの悪さにやきもきしながらとりあえず会場で買うために我慢していた新譜(DVDがついてきた)を手に入れすでに暗くなった会場の床に腰掛けたところでうやむやのまま七尾旅人登場。ライヴを観るのは初。ひとりにつき三十分ほどが割り当てられていたようなのだがこれだけの短い時間でここまで果てしなくグダグダになれてしまう七尾氏はやはり常人ではない。しきりに「キチガイじゃないよ」と繰り返してはいたが、まあ紙一重の人ではあるのだろう。弾き語りで未発表の新曲を演るわけなのだが、おおいい曲だ、いい声だ……とこっちが聞き入っているとすぐに中断し、「言わんとすることはわかる?」と歌の説明をはじめたり、妙なノイズを挿し挟んでくる。あまつさえ会場を真っ暗にして、「ちょっとみんな大人の想像力でイマジンしてみて。ここは草原で……」って歌でさえないのかよ! で、爽やかな風薫る草原を七尾氏のナビゲートとともにぐんぐんと上昇しついには宇宙に到ったわけだけど、やっぱり下手にいい声してるもんだからそれだけでもうかなり気持ちいい。間違いなくここが七尾パートのハイライトだったし、十時間くらい、ありがたみがすり減ってマイナスに傾くくらいまでだらだらと観ていたいなあとも思った。


 会場整理の手際も悪く、七尾旅人の番が終わったところでようやく客波が全体的に前に押し寄せられライヴの体裁が整った。ギターをさげたまま客席に背を向けて調整する二階堂和美の可憐さに胸が高鳴るが、明るくなって振り返ると背後に日輪を背負っていた。め、女神だ……。あとはもうひたすら恍惚の三十分。ソロで生ギターというのは久しぶりとのこと、何度かとちるもやはり歌い出すと空気が変わる。夏のお嬢さん、ラバーズ・ロック、蘇州夜曲、幸せハッピーなどなど。蘇州夜曲の間奏ではなんと二胡を声音でもって演奏。その音、表情に深く胸を打たれる。そして曲の合間にギターのこととか自分に無断で作られたmy spaceへの対処について「面倒くさい」とぼそぼそっと何度か。このイベントの性質か、なんかゆるい。たまらんなあ。普段はこうではないのだろうが、何にせよ初めての生ニカさんに完全なる撃沈、CDは『にかスープ&さやソース』(至高)と『二階堂和美のアルバム』(最高)しか持っていなかったのでとりあえず帰宅してから光の速さで『Us Tour 2003』をHMVのカートに入れた。


 次は吉川豊人と山本精一によるよのすけショウ……だったが今度は映像の準備に手間取りすぎたためいったん舞台から降りて仕切り直し。山本氏のユニットという以外に予備知識は皆無だったがなんと女とホルスタインにまつわる紙芝居がはじまった。ピカソによる「ミノタウロス」シリーズを彷彿とさせるような悪夢的な紙芝居、それを絶叫しながら語り進めるのはひょっとこ面の男、そして山本氏が奏でる多彩かつ抑制されたギターの音色……言語化不能の凄まじいステージが目の前で繰り広げられた、としか言いようがない。そしてまたしてもグダグダ。たまらんなあ。別の場所での二度目の遭遇を期待したい。


 で、入念な音調整を経てパーティの主賓登場。騒がしくも粗さはなく、締まった、厚みのあるよいステージ。ぜんぜんグダグダじゃない!想像以上に異国感、民族的要素は薄く、歌、言葉、その響きが前面化し、しかもオオルタイチを中心にして皆ニコニコと笑みを絶やすことなく演奏に集中しているのだ。原始の集落でも、未来都市でも、アメリカのハイウェイでも……どこで流れていてもおかしいことはない。「パヤパヤ」ではPVに出演したダンサー氏が登場し、パイナップル二個を掲げ持ちながら汗だくでダンス、よく見たらあれ、ち、乳首が立(以下略)。レパートリー終了後、燃焼しきった感が会場に立ちこめながらもやはりアンコール。バンドにとってはじめての経験だとか。なんともレア尽くし!そして演奏中に何度もタイチ氏の頭からずり落ちそうになった植物的というかサイバイマンの頭風帽子の紹介等を経て、1st収録曲「永久の愛」。これがあまりにすばらしくて参った。で、さすがに全員一致で完全燃焼。animal collectiveのときのように延々と二度目のアンコール要求をつづけざるを得ない羽目とならずに済んだ(みんな帰らないから動けないんだもの。足腰がガクガクしていたってのに)。んで、十時をとうにまわってはいたけどひとまず身体をさますため帰りは梅田まで歩き。その道中、脳細胞二個マンより「たまっぽい曲なかった?」との一言。ありました。2nd収録の「記憶のパノラマ」。単純な類似というよりはたまとウリチパン郡の交わる場所にこの曲が存在しているという感じ。「柳ちゃんを感じた!」というとすかさず「知久くんを感じた!」と返される。こんなことって、まあ、他のバンドでは滅多にあることではない。各メンバーのソロでさえも。