ornette coleman好きにはけっこうたまらないものがあるよ、との聞こえよがしの囁きに乗ってうかうかとkornstad trioを買い、帰宅していそいそとプレイボタンを押すと、ゆっくりと揺らめきながら浮上しつつ沈み込むギター音と彼方で歪むバイオリン、そして湖上の煙の向こうで信号のごとく明滅するドラムが……ってぜんぜんちがうじゃん!と思いながらも一生懸命オーネットっぽさを探しつづけ、でもジャズですらないしなあ、しかもこれトリオじゃないだろ、とパッケージをあらためてみたらいっしょに買ったGODSPEED YOU! BLACK EMPERORだったという(だってどっちもダンボール紙みたいな質感で色の配分も似てたんです)相変わらずの音楽弱者ぶりにもかかわらず、またはそれゆえか、これまでそれなりによい聴者であったつもりのDon Cherry"Eternal Rhythm"を、ある朝めざまし代わりにタイマー起動したオーディオからその一音が鳴りはじめる数秒前に目を覚まし、そのまま身動きひとつ取れないままアルバムの最後までこれ以上ない、かつて想像しなかった、想像することさえ想像しなかったほどの深度と喜びをもって享受してしまったと錯覚してしまったのはまあさほど前のことでもなかったので、Jon Appletonとの共演盤『HUMAN MUSIC』の裏ジャケで胎児の頭部をぶら下げているかのごとくまんまるに頬を膨らますドン・チェリーの写真を眺めながら今日も電子音の森の木立に切れ切れに姿を見せるトランペットやフルートの音色を観察しちゃろうかしらんとケースを開けたらディスクだけがなく、ちょっと探しても見つからなかったので仕方なくいちばん近くにあったBATTLES『TONTO+』を開いたらまあ例のごとく合わせ鏡構造というか向かい合わせの両ポケットにCDとDVDが一枚ずつ入っていて、何度試みても盤面かスリーブのどちらかを傷つけずにうまく取り出しおおせる気がせず、案の定前回は盤面にすり傷が入り、今回はスリーブの背にちょっと破れ目ができ、しかもかような犠牲を払ったにもかかわらず取り出しには失敗したのでとりあえずやさしく放り投げ、その次に近いところに置いてあったMichel MangeもといMagneを。これはただのデジパック。そして中身は軽快に疾走するお洒落な変態ジャズ。タイトルはそのものずばり『Le Monde Experimental De Michel Magne』で、どうやら59年作と68年作の2in1(プラスα)らしいが、これがまたいささかも古びていない。ときに旋律は美しく、ときに楽器の一音一音が格調高く清廉で、しかしすぐさま翻って鋭利でリズミカルな演奏に女性の喘ぎが、あるいは笑い声が、日常音のコラージュが、テルミンのごと震える女声が穿たれる。またもや悪癖を開放してビーチ・ボーイズにたとえてみるなら、SMiLE〜Smiley Smileと『SUNFLOWER』一部収録作の編曲でおなじみMichel Colombierの接近……というのは百歩譲ってもせいぜい前半の59年パートにしか当てはまらず、68年パートは表面的な楽しさ、賑やかさは鳴りをひそめ、グッと渋く、タイトに、しかしより奔放で登りつめるようなジャズが展開されるのだからやっぱり毎度毎度の勇み足というオチ。かなりの良盤ではないでしょうか。

 書店にて友人らしき20代の女性二人が本を物色しながら新作映画の話をしていた。「……もあるし、『ハプニング』もあるし」「あ、『ハプニング』めっちゃ観たい」「うん、『ハプニング』観る」「ねえ、『ハプニング』」「うん、『ハプニング』」「『ハプニング』なあ」「『ハプニング』」……ってどれだけ観たいんだよ! ところで予告編を見る限りではシャマラン監督って黒沢清を観ているとしか思えないんだけど。『レディ・イン・ザ・ウォーター』にもラストをはじめどうにも日本映画くさいシーンが頻出していたし、ひょっとして日本映画フリークだったりするのだろうか。情報求む。ともあれ彼女たちの声に励まされるかのように土曜日の公開初日に足を運ぶことをその場で決意。翌日は待望の『スカーレット・ピンパーネル』だったりするのだけどまあ問題ないでしょう。