夕方ごろあるいは仕事場とも呼ばれうる国道に面した区画の隅っこに据え置いてあるコピー機に手を置いてほんの数秒ほどぼんやりとベージュ色の壁紙に細かく泡立つ「イボイボ」を見るともなしに見ていたらその場には何の匂いが立ち上がる契機もなかったはずなのに鼻の中を一瞬だけ『火の鳥 復活編』の匂いがよぎった。たしかにある匂いがしたのはおぼえている。その匂いを感じる、鼻で感じたと認識したのと同時にあるいはそれよりほんのわずか早かったのかも知れないが手塚治虫の『火の鳥 復活編』の記憶が視覚として展開されたのだけどそれは場面のコマ割りやセリフやキャラクターの逐次的な追想ではなく作品そのものが一挙性をもって瞬時に提示されたのであってその同時性というか喚起のされ方を線的な文章で説明するにはひどくまわりくどい作業が必要となるように思う。つまりそのひとにとって『火の鳥 復活編』はある特定の匂いに集約されるものであったわけで実際に喚起させられるまでそんなこと全然知らなかったのだけどまさか『ポリエステル』じゃあるまいに本から実際にその匂いがしたとは考えにくい。というのもその匂いは『火の鳥 復活編』の内容全体以外の何ものをも喚起しないし連想させないのだ。ちなみに『ポリエステル』は上映の際に観客にシートが配られ特定の場面がきたときに該当箇所をこすればその映画の中と同じにおいを体感することができた。ビデオにもちゃんとついている。京都近辺に住んでいるなら三条のTSUTAYAに行けば見ることができる。あそこにはファスビンダーも『怪人マブゼ博士』も置いてあったし……そういえば今年は国際ドイツ年だということでリヒター展、ポルケ展、ファスビンダー奇跡のDVD化(『13回の新月のある年に』!第三弾まで出るという話だがまあドイツ三部作が二作まで入ってるんだから『ローラ』はおそらく入るだろうとしてあとは『第三世代』と『四季を売る男』と『不安と魂』と『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』と『……とりあえず急遽第三弾だけ十枚組くらいにしてもらわんと収拾がつかない。これで『ケレル*1と『リリー・マルレーン』だったら喉が涸れるまで笑う。泣きはしない)など重要イベントが目白押しだった(ポルケはこれから東京で。大阪には来年くるようなので我慢)のだからドイツ時代のラングとかいっちょどうでしょうとか思っていたらこんなことをつい最近やっていたのだった。もちろん知らないほうが悪い。


  また時間がなくなった……。羅列は明日。9月が終わるまでに終わらせなくては。せめてはじめなくてはもうずっとやらない気がするしそれでいいと思えてしまう。むろんそれでいいんだけどそれに任せてしまうのはまあそうなってからでかまわない。

*1:第二弾にすでに入っていたネ……