遅まきながらSyd Barrettの訃報を知り、居ても立ってもいられず部屋からJandek(なんで日本ではヤンデックと表記されることが多いのかが不思議だ。OASISをわざわざオゥエイシスと表記せよとは言わないが、ジャンデックは別に元々流通していた名詞でもないしローマ字読みでもそっちが自然じゃないか。ドキュメンタリー映像とかでも普通に呼び方はジャンデックだし。どっかでJanuary+Dekkerという説を耳にしたのだけど……。まあ、世界のどっかにあるといわれる伝説の四畳半から細々と四半世紀にわたって音源を世界に送りつづけてきた隠遁アーティストだったのだから無理もない。そんなジャンデックが2年くらい前から急に人里に姿を現すようになったわけで、それでもやっぱり彼に直に接触できるのは一握りの人間だけみたいだけど、ドキュメンタリーDVDも彼自身のレーベルから格安で販売されているCDの数々もamazonなんかで手軽に買えちゃうし、Thurston Mooreがかつて興奮して語っていた奇跡のブッキング=Jandekが名乗りもせず顔も上げずに1時間ほど演奏して帰った音楽祭の映像=いわゆる"Glasgaw Sunday"もDVD化された。9月にもシカゴでやるみたいで羨ましい。ジョジョ広重が昨年グラスゴーのイベントでいっしょになった旨を日記に書いていたけど、かなり精力的というか……いままでの極度の引っ込み思案ぶりと比較してということではあるけど、でもやっぱりどういう気まぐれなのかが気になってしまい日本で手をこまねいているのがどうにももどかしい。サーストン・ムーアは「演奏はすばらしかったけどいままでの伝説は何だったんだ」と矛盾した感情を抱いていたようだけど。そういえばそのときの発言で三上寛を引き合いに出していたのだが、Jandekはすでに三上寛灰野敬二らと共演済みたいだ。恐ろしい。観客たちは生きて帰れたのだろうか……)のディスクを掘り起こし直接プラグを接続して耳の中に閉じこめる。たとえば81年のアルバム『Six and Six』。ぼんやりと霞がかったモノクロジャケット(彼のアルバムのジャケットは建物や家具などの無機物かどこで撮影したかわからないピントがずれた本人の肖像か生写真風のよくわからないものがほとんどでかなり薄気味悪い。農場にいたり、いきなり斧持って座ってたり、上半身裸で歩いていたり……他人の家の引き出しの奥から出てきそうで怖い。失礼ながらスペインの映画『ザ・チャイルド』みたいな不条理ホラーのにおいがする)の切りそろえられた前髪とカメラに向けるひずんだ眼窩はパラダイス・ガラージ豊田道倫』のジャケットを連想させる(関係ないけどむかし友人がこの豊田氏の顔を見て「目の前にいると殴りたくなる」と穏やかでない感想を漏らしていて、パラガ「初恋のひとは近所に住んでいる」の歌詞を思い出した。《夜のスーパーマーケット/レジの男の顔は/俺の嫌いなタイプ/あいつになんか似ている》という……ちなみにこのあと歌詞はこうつづく。《納豆買ったりネギ買ったり/洗剤なんか選んでいる/米はやっぱり高い/親から送ってもらおうか》→《ふっとレジ見りゃ/さっきの男仕事上がり/レジで米を買っている/俺もほしいあきたこまち》→そしてサビ《米買うときはみな同じ顔……》すごすぎる。この曲、最近妙に好きだ。この曲を流したいんで誰か結婚式の選曲を任せてはくれないだろうか)。エコーの果て、どこか距離をつかませない深い場所から破調したリズムのギターと歌声が引きずり、さまよいながらもまっすぐに耳の奥へと到達する。ハーフスポークンというか語りかけというか歌のようなつぶやきというか……ひたすら平坦で、しかし湾曲やアクセントだらけで、というかだからこそ平坦になってしまっていて、何を聴いても同じように聞こえるが何を聴いても強烈だという。歌詞も訳がわからない。native speakerたちもわけがわからないと言っているみたいですが。

 Jandek "Real Wild" - YouTubeこんなもんが落ちていたので見てみるといいかも。ふと思い立ったときに検索してみて、SPKのほとんど何が映っているかわからないノイズ映像の向こうからハーシュノイズと甲高い金属音と読経のごとき怒号が聞こえてくる信じがたいほど鋭く衝動を身体の奥底から刺激する"Despair"の映像が置いてあったりしておどろくのだけど(そしてWhite Houseで検索して偶然行き当たったVanessa Carltonの映像を見て気に入ったりする毎度の茶番が繰り返されるわけだが)、今回はアシッドフォークつながり、東京で久々のファン(?)イベントが行われたばかり、そしてもうすぐ二十年くらい前に刑務所で行なわれたライヴのCDが発売されるCharles Mansonを調査してみた。そしたらトップにThe Beach Boysの"Never Learn Not to Love"のライヴ映像が出てくるじゃないですか!マンソンの友人だったDennis Wilsonが勝手に歌詞や曲に手を加えてビーチ・ボーイズとして発表した曲で、当然マンソンは激怒したらしいが、直後に例の事件を起こして逮捕されたのでデニスは殺されずに済んだ。おそらくその時期のテレビ出演だろうと思われる。これがすばらしい。もちろんこの時期のエド・サリバン・ショウなどと同様に歌や演奏はグダグダなのだがデニスの代わりにCarl Wilsonがドラムを叩く珍しい映像が見られる。まあそれだけの話ではある。なぜこの曲をテレビで演奏しようと思ったのかはまったく不明。トチ狂っているとも言える。ちなみに原曲は"Cease to Exist"といってけっこういい感じなのだが弾き語りなのでこのままではビーチ・ボーイズの曲にはならないだろう。マンソンの曲はweb上で聴くことができるので比較してみるとよいでしょう。itunes storeでも買えますのでよろしくお願いします。