閉店準備をはじめ山のような段ボールが表に出された難波sofmapの前を通りがかったら黒沢清似の警備員がいて二三台店舗の前に駐車しっぱなしだった自転車を抱えて壁側に寄せていた。何気なく店舗の方に顔を向け、この時間帯によく見かけるホームレスの二人組がリヤカーに段ボールを積み上げる様子を見るともなく見ていると警備員の制服を着た男性の顔のうえで焦点を結び、あれ、黒沢清じゃん、と思っているあいだにも歩調をゆるめているとはいえ前進しているため徐々に視界の隅へと追いやられ、その外に出るかでないかのところでとうに視界の外にいる、それどころかはじめから認識の埒外にいたため存在の記憶すら残っていないおそらくは同僚かsofmap店員かに落ち着いた声で話しかけ、それも関西のイントネーションで、柔らかく、ああ、これは黒沢清だなあと思ったが口髭は生えていなかった(青山真治の『NOと言える刑事』に出演したころに似ていただろうか。刑事祭り、ベストセレクション的にリバイバルしないかな……)。

 で、『叫』役所広司に何度か黒沢清にしか見えない瞬間があったことは銘記しておくべきだし、一度だけ村上龍に見えてしまったことも忘れずに告白しなくてはならない。半ば廃墟のようなアパートで小西真奈美(よい)と散漫に時を過ごす時間は心地よい倦怠に包まれ、顔にはつねにそして時間の経過につれて深みを増していく色濃い疲弊が刻まれ、そして黒沢清村上龍にメタモルフォーズしながら『カリスマ』『降霊』『CURE』など過去の作品をそのたたずまいのなかに照り込ませ、刑事らしいことを何一つせず、控えめに言ってもそれをだんだんと放棄しながら今回は激烈なまでの奇妙な横移動を最後までつづけるのだった。(車での移動シーンは『CURE』のバスみたいだった。関係ないが宝塚最新作『黒蜥蜴』の車での移動シーンは押井守の単に眠くなる映画『トーキング・ヘッド』みたいだった。木村信司は本当にけれんがなくていいなあ)