お掃除ソング

 John Lennonの最晩年の歌に"Cleanup Time"というものがあって、別段たいした曲でもなくふだん思い出すことは稀ではあるのだが掃除をはじめるとなぜか頭のなかで自動演奏がはじまりホウキやちりとりや掃除機が『魔法使いの弟子』ばりに踊り出す。で、いま我が部屋の図と地がひっきりなしに転換をつづけていて、つまりは積んでは崩し、積んでは崩しの諸行無常の野分け曼陀羅で、煎じ詰めれば居住環境に新鮮な空気を差し入れるために隣の区への引っ越しを企てまさにその決行日の一週間前地点を通過したばかりというわけなのだけど、段ボールに詰めても詰めても本やCDが視界から完全に隠されてしまうことはなく、というかますます増えているようにも感じられ、頭のなかでレノンの書道のような運びのか細く掠れながらも要所で溜めを利かせる歌声が再生されるたび無駄に励起されたり萎びたりするのでとりあえず片付け中のディスクからお掃除ソングをランダムに選んでかけていることにした次第。SOLDIER-TALK最近よかったのはこれでしょうか。Red Crayola『Soldier Talk』 うわずりながら鋭さを増す弦と管と打の足並みが見事に乱れた一曲目"March No.12"がしびれる。やがて明後日の方向にすっぽ抜けたボーカルがはじまりぐっとポストパンクらしくなってくる。そこからはわりと規則正しさを懐からのぞかせ、ほどよく安心させながら愉快な音楽の街角に誘ってくれるかと思ったらいきなり裏道に引っ張り込まれたりもするからまったく油断ならない。
 ところでこのアルバムの導入は、ぜんぜんちがうがその勢い分だけ一瞬Storsveit Nix Noltes『Orkideur Hawai』を彷彿とさせる。これはトラッド・パンクとでも言うべきだろうか?Orkiduer Hawai12人の大所帯がステージにあがりめいめいの楽器でもって北やら中央やら南やらのヨーロッパ民謡風の音を吹きこすり奏でながらもどこか砂漠やら椰子の木の熱帯っぽい味わいが全体に漂うゴキゲンとしか言いようのない音楽。
 二枚並べてみちゃいましょう。当然片付けはほとんど進みませんでした。